「ダーティハリー」もよく知らないし、一番好きなイーストウッド作品は? と訊かれたら、「パーフェクト・ワールド!」(映画で感動した初めての作品)と即答してしまうほどのポンコツ映画ファンではあるけれども、それでも、クリント・イーストウッドこそが最も偉大な映画人であるという認識はもっている。そりゃあ、ジョージ・クルーニー、ましてやベン・アフレックとは格が違う。そんな彼の久々の主演作ということで少し期待しすぎた嫌いはあるけれど、「人生の特等席」(秀逸な邦題!)にはちょっとがっかりしてしまった。
メガホンを取ったのはイーストウッドではなく、ロバート・ロレンツというイーストウッドのもとで長年の経験を積んできたというフィルムメーカーらしく、あんまりよく知らないんだけど、今作が初の長編監督作ということである。
がっかりしたとは言ったけれども、今作は断じて駄作などではない。むしろ、れっきとした傑作であるからこそ、なんとも複雑なのだ。
まず、主人公の老スカウトマンを御年82歳のイーストウッドが見事に演じきっている。このキャラクター設定が素晴らしく、観客はすんなり感情移入してしまうだろう。それに、彼を支える娘を演じたエイミー・アダムスもチャーミングで、男性人はもう彼女に首ったけ。それにしても、ジャスティン・ティンバーレイクっていつからこんなに素晴らしい役者になったのだろう? インなんとかで活動していた時や、SMの歌を唄っていた時からは想像できない、程よく角が削られていてかなりいい感じ。
主人公とスカウト仲間との会話には、野暮ったいけれどとても説得力があって、なんとも茶目っ気たっぷりだ。やっぱりこれは脚本が素晴らしい。彼らの会話を聞いていると、デ・ニーロよりもアイス・キューブの方が優れた俳優だと思えてくるから不思議だ。
しかしながら、すべてが想定の範囲内なんだよなあ。コメディーとしては一級品なんだけど、こちとらヒューマンドラマの名作を期待していたわけで。後味はすごくいいんだけれど、そもそも何の味かわからないような。どうせなら、不味くてもいいから、そのかわりにひたすら後にひきずるような作品にして欲しかった。
傑作は誰にでも作れると思うが、名作は誰にでも作れるわけではない。このイーストウッドに弟子だと認められた新人監督の次回作に期待したい。そして、その時もイーストウッドが再びスクリーンに現れることを願っている。
「人生の特等席」公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/troublewiththecurve/
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