いきなりだが、「ヒミズ」を観た。紆余曲折があり、上映終了日の最後の回に観ることになった。お客さんは少ないだろうなあ、と思っていたら、30人くらい観に来ていてちょっと驚いた。たぶん、みんな相当の映画ファンなんだろうな。なかには何回目かの人もいたのではないかしら?
復興への願いを込めた作品としても観ることはできると思うが、あえて僕は1人の少年の再生への痛々しい道程として観た。そのほうがより自由に解釈できると思ったからだ。
いや~、すごく良かった、とかいう言葉では済まされないくらい圧倒的な内容。園子温節全開のメロドラマチックなまでに過剰な演出。普通ならマイナスになりかねない要素なのに、彼の手にかかればそういったことが見事に功を奏す。マジックみたいなものなのだろう。絶対にタネはあるはずなのに、それがなぜだかわからない。
前2作、「冷たい熱帯魚」「恋の罪」はすごくプライベートな、監督の個人的な趣味が前面に押し出されたような印象を受けたのだが、今作は違う。もっといろんな人に観てもらうことができるような、あまり好きな表現ではないが、一般的とでも言えば良いのだろうか? そんな感じがする。それでも充分に毒は存在するのだが。
感動のラストが待っている! というような作品は数多く存在するが、全編にわたって涙がこぼれるような作品に出会ったのは、今作が初めてかもしれない。鼻をすする音がそこかしこで聞こえた。ものすごくセンチメンタルでヒリヒリとした感触。そのくせに緩めるところは緩めてやがる! だって、あの社本夫妻をそのまま登場させているのだ! なんとも洒落が効いていて、素晴らしい選択だ。
それでもやはり今作のラストシーンと言ったら! 未来へ向かって励ましながら走り続ける2人に、嗚咽をもらさずにはいられなかった。主人公を励ましているというよりは、それを通り越して自分が励まされているかのようだ。
そら、この監督の指導があったのだから、主演の2人の演技が素晴らしいのは当たり前で、ヴェネチアで賞をもらうのは当然だと思う。しかしながら、脇を固める役者も素晴らしい。光石研もでんでんも渡辺哲も、さらに言えば、新井浩文も素晴らしい。そんな中で最も気に入ったのは、2人の担任の教師を演じる矢柴俊博だ。
彼は最近、テレビドラマやコマーシャルでも活躍していて、ちなみに「恋の罪」にも出演している。僕は大阪に住んでいることもあってか、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのCMで彼を頻繁に目にする。偽善と欺瞞に満ち満ちたこんな胡散臭い役を、こんなに正々堂々と演じられる役者が他にいるだろうか? すべての意味を反転させるラストの疾走も、彼の吐くみっともないセリフがなければ成立しなかったはずだ。彼はもっともっとブレイクしても良いと思うのだが、どうなんだろうか。
そんなわけで、作品に圧倒されすぎてその良さが逆に伝っていないかもしれないが、これだけは言わせて欲しい。この作品に匹敵するものには、もしかしたら出会うことがあるかもしれないが、この体験を超えることは絶対にない! 園子温はこの作品で、彼の今までのキャリア中でのベスト「愛のむきだし」を超えた! そして、「レスラー」でもらっておきながら、この作品に金獅子賞を与えなかったダーレン・アロノフスキーが信じられないぜ!
「ヒミズ」公式サイト:http://himizu.gaga.ne.jp/
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